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大津地方裁判所 平成9年(ワ)594号 判決 1998年7月31日

原告

山口政江

ほか一名

被告

津田透

主文

一  被告は、原告山口政江に対し七九六万六八九二円、原告山口恭平に対し六〇万円及び右各金員に対する平成七年六月二四日から支払い済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告山口政江に対し、一〇二一万八七六八円、原告山口恭平に対し、一一〇万円及び右各金員に対する平成七年六月二四日から支払い済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  一項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、被告が、深夜、飲酒の上、国道一六一号線のセンターラインを越え、原告山口政江の夫が運転する普通乗用自動車に正面衝突したため、この事故で負傷した原告らが、不法行為に基づいて、傷害による損害を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

1  次の交通事故が発生した(争いのない事実、甲一ないし四、乙一ないし八)。

日時 平成七年六月二四日午前〇時四〇分ころ

場所 大津市浜大津四丁目三―三〇地先 国道一六一号線

被害者 原告山口政江(昭和三五年五月二五日生、事故当時三五歳)

原告山口恭平(平成六年二月二日生、事故当時一歳四月)

加害車 被告(昭和三四年三月二日生、滋賀病院勤務の医師)運転の普通乗用自動車

事故の態様

被告は、深夜、飲酒の上、加害車を運転して、事故現場付近の国道一六一号線を進行中、ハンドルを正確に操作して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、ハンドル操作を誤ってセンターラインを越え、折から、対向進行してきた原告の夫山口徹(昭和四〇年五月九日生)運転の普通乗用自動車に正面衝突した(以下「本件事故」という。)。

原告らの負傷

原告山口政江(昭和三五年五月二五日生)は助手席でシートを後ろに倒し、幼児の原告山口恭平を抱いて、シートベルト不使用の状態で寝ていたが、本件事故により、右上腕骨骨折・右上腕骨偽関節・手術創肥厚性瘢痕・鼻骨骨折・右僥骨神経障害の障害を受け、原告山口恭平も、右上腕骨骨折の傷害を受けた。

2  被告は、本件事故について業務上過失傷害罪により起訴され、平成八年七月二七日大津地方裁判所で懲役一年(執行猶予付)の判決を受け、確定した。

三  争点

損害

(原告山口政江) 以下の合計一〇二一万八七六八円

1  休業損害 三〇一万八七六八円

2  後遺障害による逸失利益(一二級) 二二四万円

ただし、平成九年一二月一一日に、自賠責一二級該当の被害者請求による補償金二二四万円を受領したので、これを充当する。

3  慰謝料 六二〇万円

入院五か月、通院一六か月、後遺症に対する慰謝料

4  弁護士費用 一〇〇万円

(原告山口恭平) 以下の合計一一〇万円

1  慰謝料 一〇〇万円

2  弁護士費用 一〇万円

及び右各金員に対する不法行為の日である平成七年六月二四日から支払い済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金。

なお、本件は、被告が飲酒の上センターラインを越える重過失によって正面衝突した事故であり、シートベルトの不使用により損害額が増加した事案ではないから、その不使用を理由に過失相殺すべきではない。

(被告の主張)

原告らはシートベルトを使用していなかったため本件の傷害を受け、又は受傷が拡大した。したがって、この点は原告らの過失と評価すべきで、本件事故の損害から三割の過失相殺をすべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点(損害)について

1  原告山口政江について 以下の合計七九六万六八九二円

(一) 休業損害 三〇一万八七六九円

甲一ないし五、乙一ないし八及び原告山口政江の本人尋問の結果によれば、原告山口政江は、本件事故当時主婦であったこと、本件事故による負傷のため、<1> 事故当日の平成七年六月二四日から同年八月一〇日まで、大津赤十字病院に入院し、<2> 翌八月一一日から平成八年七月二九日まで同病院へ通院したが、<3> 右上腕骨の骨折部分が完全に付着しないので骨移植手術を受けるため、翌七月三〇日から平成八年一一月七日まで同病院に再入院し、<4> 翌一一月八日から平成九年三月二一日まで通院し、同日、症状固定した(入院日数一四九日間、通院実日数六二日間、)こと、症状固定時の障害は、右前腕から右手の親指、人指し指、中指にかけて、僥骨神経領域の知覚鈍麻等があり、後遺障害別等級表の一二級一二の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すること、一回目の退院後、ひとりで夫と子供の世話をしていたが、本件事故で同じく負傷した夫が平成七年一一月に退院するまでは、原告山口政江の実家に帰って介添えをしてもらっていたこと、そのころは痛みもあり、手が上がらなくて、子供を抱くことも駄目と言われていたこと、二回目の退院後は家事をしているが、右手の親指、人指し指、中指、肘が痺れている状態で、背中に手を回すと痛みがあり、右腕は天気によって上下するのが辛く、家事をするにも堅い物を切るときに痛みがあること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、原告山口政江は入通院の実日数中計二一一日間は一〇〇パーセントの休業による損害を被り、それ以外の症状固定日までの通院日内の四一九日間は三〇パーセントの休業による損害を被ったものと認められるので、賃金センサス平成七年第一巻第一表産業計・高卒・女子・事故時三五歳・年収三二七万二五〇〇円として計算すると、次のとおりである(円未満四捨五入)。

三二七万二五〇〇×二一一÷三六五=一八九万一七七四円

三二七万二五〇〇×四一九÷三六五×〇・三=一一二万六九九五円

計三〇一万八七六九円

(二) 慰謝料 五〇〇万円

前記認定事実にかかる、本件事故による負傷の部位、程度、入院日数約五か月間、通院約一六か月間、そのうち実通院日数約二か月間、後遺障害の部位、程度等本件に表れた諸般の事情にかんがみると、入通院及び後遺症に対する慰謝料は五〇〇万円をもって相当と認める。

(三) 過失相殺した額 七二一万六八九二円

助手席で寝ていた原告らがシートベルトを使用していなかったことは前記のとおりである。原告らの受傷の部位、程度からすると、シートベルトを使用していたらもっと軽い怪我で済んだ可能性が高いと認められる。したがって、シートベルト不使用の点は原告らの落ち度とみる。一方、被告においても飲酒の上センターラインを越えるという重過失があるので、双方の過失を比較勘案し、原告らにつきそれぞれ一、被告九の割合で過失相殺するのが相当である。

してみると、原告山口政江の損害は、(一)、(二)の合計額八〇一万八七六九円から一割の過失相殺をした七二一万六八九二円となる。

(四) 弁護士費用 七五万円

右の金額をもって、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害と認める。

(五) 原告山口政江の損害総額 七九六万六八九二円

以上の事実によれば、同原告の損害額は、七九六万六八九二円及びこれに対する本件事故の日である平成七年六月二四日から支払い済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金となる。

2  原告山口恭平について 計六〇万円

(一) 慰謝料 六〇万円

甲二によれば、原告山口恭平は、本件事故により、右上腕骨骨折の傷害を受け、平成七年六月二八日から同年八月一〇日まで入院したが、ショックのため肝臓の数値が上昇し、数日間絶食したこと、翌八月一一日から同月二九日まで通院(実日数一日)し、現在は完治していることが認められ、右事実及び本件に表れた諸般の事情によれば、同原告の慰謝料は六〇万円をもって相当と認める。

(二) 過失相殺後の額 五四万円

前記の説示に従って一割の過失相殺をすると右額となる。

(三) 弁護士費用 六万円

右の金額をもって、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害と認める。

(四) 原告山口恭平の損害総額 六〇万円

以上の事実によれば、原告山口恭平の損害額は、六〇万円及びこれに対する平成七年六月二四日から支払い済に至るまで年五分の割合による遅延損害金となる。

二  結論

以上によれば、原告山口政江の請求は七九六万六八九二円、原告山口恭の請求は六〇万円及び右各金員に対する本件事故の日である平成七年六月二四日からそれぞれ支払い済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、これを認容することとし、その余の各請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六五条、六一条、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鏑木重明)

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